雪の国への鉄道旅行(3)
A Journey to the Land of Snow
再び北を目指して
カーテン開けると、夜明け前の白い北アルプスが見えた。山の端は薄紫色に縁取られている。昨晩買った手作りのパンを口に押し込み、牛乳をひとくち、ふたくち。山の頂は徐々に朝日に照らされ、輝いてくる。
ホテルを出ると、冷たい朝の空気に身が引き締まる。駅にはさすがに人も少ない。
昨晩やっと決めた行程は、この松本から再び北を目指し、新潟から国境の長い清水トンネルをもう一度抜け、まる一日かけて家まで帰るというもの。
これから乗り込む篠ノ井線を待つ反対側には、甲府へ向かうあずさが止まっている。幾人かの乗客を乗せ、8時少し前に走り去っていった。
松本から長野までは昨日と同じ行程だが、時間が早く感じられる。姨捨駅でも停車時間はあまりなかった。風景をゆっくり見ることの出来た昨日は幸運だったのかもしれない。
長野駅
長野駅に着いた。次の電車までにはしばらく時間があるので、駅弁を探しに改札を出る。売店はやっているが、お土産が中心で弁当は見当たらない。駅から外に出てみるが、あたり一帯は工事用の壁で囲まれ、しかもまだ時間が早いため店もほとんどやっていなかった。どうりで構内のコーヒー店のレジに行列が出来ていたわけだ。
再び改札の中に入り売店を探すと、ちょうど店頭で駅弁を並べているところだった。彩りのきれいなものを買い求めプラットフォームに下りると、すでにたくさんの人が並んでいた。
飯山線
飯山線は長野駅を発車し、千曲川の流れにそって走っていく。乗客は多く通勤電車のようだ。川の側をずっと走る電車に乗った経験は、これまでなかったかもしれない。
途中の駅で車両が切り離され、そこから先は1両での運転になる。
春に星峠などの棚田を見に訪れた松代を通り、十日町駅に着く。ここで電車を乗り換えるものだと思っていたが、今乗っている電車がそのまま走っていくようだ。待ち時間が50分ほどあるので、車内で駅弁を広げる。プラットフォームには雪が積もっており、空気が冷たく、暖房で温まりすぎた体にはちょうどよかった。
発車の時間が迫ってくると、これまでの待ち時間がとても短かったように感じられる。電車はここから越後川口駅へ向かう。
単線のおだやかな風景のなかを進み、いくつかトンネルを抜け、橋を渡る。着いた駅で電車を降り、線路をくぐって反対側のプラットフォームで上越線の上り電車を待つ。
越後の山々
車窓の左側には雪を抱いた越後の山々がよく見えた。一昨日は雪が降っていて何も見えなかったが、こんなに美しい風景が広がっていたのか。電車は南に向かって進みながら、途中の駅でスキー客を拾い上げていく。
そして国境の長いトンネルが近づいてくる頃には、あれだけ綺麗に見えていた山々は淡い灰色に覆われ、霞んで見えなくなった。
国境の長いトンネル
車窓がふいに真っ暗闇になる。
清水トンネルを抜けると、土合駅に着いた。三角の駅舎が特徴的で、もう何年も前に車で旅行に来たことを思い出す。ほどなくして水上の駅に着いた。ここで高崎行きの電車に乗り換える。
旅の終わり
水上の駅を過ぎると、雪はまったくといっていいほど見られない。雪国から帰ってきた、そんな思いが強くなる。
走る電車の窓から後ろを見やると、国境をなす谷川岳の山々だけが白く輝き、浮かび上がっているようだ。その姿がなくなるまで、いつまでも車窓を流れる風景を眺め続けていた。
だいだい色の太陽が榛名山に沈んでいく。旅の終わりを締めくくってくれる、美しい夕焼けだった。
高崎駅から湘南新宿ラインに乗る。目を閉じて今回の旅行を思い出す。
降り立った新宿駅はいつもの喧騒の中にあった。
【行程】(3日目:2013年12月30日)
・松本→長野
・長野→十日町→越後川口→水上→高崎→新宿
おわり