雪の国への鉄道旅行(1)
A Journey to the Land of Snow
青空の広がる関東平野
本州の日本海側は荒れた天気となっており、鉄道の運行に支障はないのか若干の不安が頭をよぎるが、そんな不安よそに、関東平野には青空がどこまでも広がっていた。
電車は新宿駅を滑り出し、北へと向かう。秩父や群馬北部の山々が見えてくるにしたがって、空にも少しずつ雲が浮かび出した。車窓の右手前方には赤城山が見えてきた。
国境の長いトンネル
高崎駅を発車ししばらくすると、左手の車窓には榛名山と、遠く白く霞んだ草津方面の山が見えてきた。水上駅に近づくにつれ、田んぼには溶け残ったなごり雪のようなものが見られるようになり、前方には谷川岳などの国境にある山々が現れ、それらはどれも雪に覆われ白く輝いていた。
水上駅に着くと駅舎と線路は雪に覆われていた。帰省やスキー客の人々だろうか、多くの乗客とともに連絡橋を渡り、長岡行きの電車に乗り換える。水上は谷川岳の麓にあるひらけた温泉街だが、ほとんどの乗客は下りることなく、このまま雪国へ向かうようだった。
高崎駅へ戻る電車には乗客の影はまばらで、電車が走り去った後のプラットフォームを歩く男女の姿が印象的だった。
雪国
トンネルを越えると、そこは確かに雪国だった。
群馬県と新潟県の県境に聳え立つ谷川岳。その山々の下に掘られた清水トンネルを電車は走り続ける。電車のごうという音にかき消されがちな乗客の話し声を耳に、このトンネルはいつ終わるのだろうと思っていると、電車の音がふいに軽くなり、車窓には一気に真白い世界が広がった。山をひとつ越えただけでこんなにも世界が違うものだろうか。
それから電車は幾つかのスキー場を辿りながら北を目指す。途中の駅で乗ってきた地元の学生の帰省ラッシュという言葉が新鮮に聞こえる。雪の中を歩くのだから当然だが、彼女らが履いている長靴と、乗客の履いている靴との違いが面白い。
北へ、日本海へ向かうにつれ、少しずつ雪の間から地面の色が見えてくるようになってきた。空には青空も見える。眼下に信濃川が見えてくると、ほどなくして電車は長岡駅に着いた。乗客は足早にプラットフォームの階段を上がっていく。
長岡駅で電車を乗り換え柏崎方面へ向かう予定だが、その前に駅ビルの蕎麦屋でへぎ蕎麦の昼食をとる。青春18切符は行き先が決まっている切符ではなく、どこの駅でも途中下車できる。そのため気兼ねなく改札口を出入りすることができる。
強い風の影響で、柏崎へ向かう電車は少し遅れていたが、ちょうど快速電車に乗れ、また窓側の席に座ることもできた。電車は信濃川を渡り、山あいを抜け、柏崎方面へ向かう。柏崎は日本海にほど近く、平野部にはほとんど雪は積もっていなかった。
今日はこの柏崎で泊まる予定だが、快速電車は予想以上に速く走り、まだ時間にも余裕があったので、このまま、より海に近い柿崎まで乗っていくことにした。
冬の日本海
電車が日本海に出ると、そこには色彩の乏しい空と、荒れた海があった。人のいない車両の連結部の窓からひとり海を眺める。佐渡は影も形もない。打ち寄せる波が荒々しい。
電車は柿崎の駅に着いた。夏には海水浴場でにぎわうこの海岸も、冬の今は誰もいない。強い風が海から吹き続け、時おりあられが叩きつけてくる。波打ち際の砂はえぐり取られ、落ちていた流木も波間に消えていった。うっかりしていると命も取られてしまいそうだ。
ただ、海の色は何ともいえず美しい。そして日が沈みつつある方角の空は雲が切れ、淡くはかない夕焼けに染まる雲と空の色もとても美しく、いとおしい。
駅へ戻ろうと、浜辺から少し陸へ入ると、驚くほど風が穏やかになった。遠くには雪化粧をした米山が見えるようになった。
柏崎へと向かう電車が来る頃には、あたりにはすっかり夜の帳が下りてきていた。乗り込んだ車両には乗客もまばらだった。走り出してしばらくすると、強風のため電車は近くの駅で止まってしまった。目を凝らして海を見てみると、岸壁にぶつかった波がはじけ、白いしぶきを上げている。10分ほど経っただろうか、電車は再び走り出し、柏崎駅へ到着した。
改札を出ると、あられが吹き付けてきた。ホテルに荷物を置き、商店街にある食堂で食事をとった。ストーブがとても暖かい。
ホテルに戻り、天気予報を見ながら明日の計画を立てる。
こうして、柏崎の夜は更けていった。
【行程】(1日目:2013年12月28日 )
・新宿駅→高崎駅→水上駅→長岡駅
・長岡駅→柿崎駅
・柿崎駅→柏崎駅